廃兵院工房

おふらんすなど

令和のAIR聖地巡礼記

夏の某日、和歌山県にあるJR御坊駅のホームに降り立つと、むんとした熱気が肌を直撃した。

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「あづい」

冷気で満たされた車内に戻りたくなったが、列車は無常にも遠さがっていく。

ガタンゴトン。

改札を出て、駅前のレンタカー屋に向かった。名前を名乗ると、暇そうにしていた女性従業員が対応してくれた。

「どちらに」

じろりと服装を見られる。ダサいアロハを着込んでいるものだから妙に気恥ずかしい。

「ちょっと海の方に」

「そりゃよかです。ここは田舎ですけど、海はキレイですよ」

 

AIRというゲームがある。

keyというゲームメーカーが世に放ったノベルゲームだ。中身は正直、もうあまり覚えていない。ヒロインのかみお みすずという名前だけは辛うじて憶えていた。でも、ツイッターでは神尾美鈴と書きこんでいた(本当は観鈴)。今さら作品を貫徹する気力はない。作品の香りだけ何度も嗅ぎ直しながら、それでも何となくAIRが好きだった。

 

和歌山県内にあるAIRの主要な聖地ポイントは10数カ所。御坊市と、隣接する美浜町にまたがっている。最も遠いポイントは御坊駅から9キロ以上。まずはここから攻めることにした。

海岸線を走っていると、砂利浜が視界に入った。煙樹ヶ浜だ。日差しを浴びて水面が光っている。思わず車を止めて見入った。一説によると、煙樹ヶ浜は観鈴たちが走った砂浜のモデルらしい。でも、本当かどうかは分からない。公式が舞台を明示していないためだ。兵庫県香美町も作画の参考にされているようで、アニメ制作から16年経っても謎のまま。それでも、多くのファンたちが長年にわたり、この海を聖地と信じて足を運んでいる。

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後でじっくり堪能することにして、煙樹ヶ浜を離れた。

国道24号線を10分ほど進むと、三尾漁港に行き着く。ここに3つほど聖地ポイントがある。

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堤防に登ると、腕を水平に伸ばしてみたくなったが、我慢した。不審者になりかねない。

バス停近くのアメリカ村食堂すてぶすとんで昼食をとる。店内に「アニメ【AIR聖地巡礼情報」と書かれた写真帳があった。店の関係者の自作らしい。

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女性店員に「ちょっと読ませてください」と頼むと快諾。「ここに引っ越してくるまでこの作品知らなかったけど、街のことがよく再現されていてね。ファンの人がよく来てくれるのよ」。笑顔でこう話した。

実は、この店の近くにある「白鳥商店」というスイーツ店で作品に登場するドリンクにちなんだ「どろり濃厚ピーチかき氷」を夏季限定で提供しているらしく、ぜひ食べたかったがこの日は休業していた。残念。

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気を取り直して巡礼を続ける。

御坊市内に戻り、廃線跡を見た。この女性2人組とバイカーの男性と居合わせた。しきりに作品と同じ構図で写真を撮影している。お仲間らしい。16年前のアニメで、平日に遭遇するとは。ちょっと驚いた。

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会話は交わさないが、互いに配慮しながら順番に写真を撮る。不思議な感覚だ。

徒歩でポイントを抑えていく。美凪の回想シーンで登場する路地は、民家の撤去によって景色が変わっていた。こういう聖地も今後は増えていくんだろう。

再び煙樹ヶ浜へ。浜のすぐそばには859年に遷座したという御崎神社がある。この神社の鳥居も、どうやらAIRでモチーフになったという噂が。なお作品内に登場する神社の本殿は東京都国立市谷保天満宮を参考にしているようだ。

お参りを済ませ、自販機で飲み物を買った。どろり濃厚…はないので、桃味のジュースを。煙樹ヶ浜の堤防に腰掛け、ジュースをちびちびやらながら、日が暮れるのを待った。夕陽をきらびやかに反射する水面はいくら見ても飽きなかった。

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見惚れすぎた結果、予定していた電車を逃し、和歌山市内で一泊する羽目になった。が、がぉ…。それでも来て、良かった。

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